「イスラームにとってウイグルとは?」「いま文明圏再編の時代とは何か?」【中田考】
「隣町珈琲」中田考新刊記念&アフガン人道支援チャリティ講演〈質疑応答編〉
■文明の再編、そして「歴史の終わり」の訪れ方
質問3:タリバンの復権は、言い換えるとアメリカは2001年に仕掛けた戦争に負けたということであり、自由と民主主義を押し付けられなかったということですよね。大きく言えば「近代が負けた」ということです。
社会学者のハーバーマスに『近代 未完のプロジェクト』という本がありますが、中田先生はタリバンの復権によって『イスラーム 未完のプロジェクト』のエンジンがかかると見ていらっしゃると思います。
イスラームは、人種や国民国家を超越した、グローバルな思想ですよね。世界がイスラームで覆われるとどうなると、中田先生は思われますか? フランシス・フクヤマが言ったような「歴史の終わり」になるのでしょうか。
中田:実は私の『カリフ制再興』(書肆心水・刊、2015年)という本は、ハーバーマスをパクって「未完のプロジェクト」という副題がついています。
ハーバーマスはドイツの人ですね。彼は前のローマ教皇と対談していますが、ドイツはものすごく宗教的な国です。ハーバーマスよりもはるかにシステマティックな社会学者のルーマンなんかでも、ずっと宗教のことを言い続けてるくらいです。
私自身は、キリスト教とイスラーム教とはべつに違う宗教だと思っておらず、同じ一神教だと思ってます。同じ一神教の啓蒙プロジェクトの中で、キリスト教のほうが先行したけれど行き過ぎだった、というように考えています。
現代は、大きく見ると「文明圏の再編の時代」だと思います。どの文明圏が一緒になっていくのか、どうなってもおかしくない状況になっています。
例えば日本は中国などの東アジア文明圏に入っていると思ってますので、アメリカではなくてそちらに入るべきだと思います。
ヨーロッパは、ローマ帝国が分裂した際に西ヨーロッパと東ヨーロッパに分かれました。さらにその西ヨーロッパはプロテスタントとカトリックに分かれ、そこから「アングロスフィア」、つまりイギリス・アメリカ・オーストラリアといった部分へと分かれていく流れがあります。
しかし私としては、イスラエルなどユダヤ教、キリスト教、トルコなどイスラームの西の部分、さらにロシアも含めて、旧ローマ帝国の文明圏が一つになって文明圏を作る形で安定するといいんじゃないかと思います。
宗教的に言うと「イスラームが最終的に世界を征服する」という考え方はありません。そもそも世界は一つになんかならない。その前に、フランシス・フクヤマが言うのとは全然違う意味で「歴史が終わる」からです。
これは「最後の審判」の話なので、いつやってくるかはわからないですけれど、近い将来にはそうはならないと思っています。21世紀全体まで見ると、どうなってもおかしくないのかもしれませんけれど。
構成:甲斐荘秀生
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